火入れ

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炭窯にいよいよ火が入る。炭焼き師にとっては、ホッとするときであり、これで炭の善し悪しが決まってしまう緊張の始まりでもある。
火を見てホッとした私は、「火を入れたら、酒を一杯飲みたくなりますね」と言うと
「いやいや、今はこうやって見てるがの、昔はホレ、仕事やったし、火がついたら、また次の窯の準備せんならん。窯に火を焚いてる間に木伐りして、割って、それから前の窯でできた炭の袋詰めもしなあかんのや」と笑って言われた。
「それでも、こうやって火を見るとホッとするのぉ」と邦雄さん。

焚き口にくべてあった木に火がついた。
木が燃えて薪が減ると、木をくべる。
火を入れて最初の一日は、どんどん火を焚いていく。
焚き口の中
くべられた木が燃えて熱気が生まれる。
熱気は、窯側へ吸い込まれ、炎とともに窯の中へ流れ込む。



しかし火の勢いとは裏腹に、じんわりと窯全体を温めていく。
イキ
火入れをしてしばらくすると、窯のあちこちから煙が立ち上る。これを「イキ(息)」と呼ぶ。
煙に手をかざすと、意外にも熱くない。
鼻を近づけると、木の焼ける匂いがプンとしてきた。
「イキ」は深呼吸をするように、ゆっくりと吹き出してくる。
これをイキと呼ぶようになった、炭焼き師たちの感性に脱帽。
煙に包まれ、少しずつ暖まっていく窯。
でも表面はまだひんやりと冷たい。
「明日になると、暖かくなってくる」と邦雄さん。
この上で寝たら暖かそうですね、と聞いてみると
「冬は窯の上にムシロを敷いて、いねぶったり(居眠ったり)したなぁ」と笑って答えた。
ホドから昇る煙。
火入れして数時間経つが、煙はそれほど熱くない。窯がまだ冷たいからだ。
この煙の温度、色、匂い、味、濃さ、勢い、形、そして経験。五感と勘と経験を総動員して、窯の中の状態を推し量り、木を炭にする。